「オリバー・ツイスト」
(2005年 イギリス/チェコ/フランス/イタリア 129分)(あらすじ)
救貧院で暮らす孤児オリバーは、ほかの孤児たちと同じように虐待を受けていた。ある日彼はくじで選ばれたために、代表としてもう「もう少し粥を下さい」哀願しに行くが、このために返って問題児と見なされる。そして葬儀屋に働きに出されるが、そこでも救貧院と同じような扱いを受け、ついには母親を侮辱されたことに我慢ができなくなりロンドンへ逃げることになる。空腹と疲労で道端にうずくまっていた彼は、こちらを見つめるスリ団の少年"早業"ドジャーと出会うことになる・・・。(レビュー)
この作品は19世紀初頭のイギリスの代表する作家チャールズ・ディケンズによる同名小説を映像化した作品で、1922年に初めて映画化されてから今作を含めてイギリスやアメリカで何度もリメイクされており、イギリス国内だけにとどまらない定番中の定番の作品である。まず、監督はあの「戦場のピアニストでアカデミー監督賞を受賞したロマン・ポランスキーで制作費80億円(興行成績はこの半分位だったらしい)とも言われ、イギリスが誇る俳優ベン・キングズレーも出演しており、製作サイドの本気度を感じさせる作品だ。劇中に出てくるロンドンの街はおそらくセットだろうが、その活気や風情は繁華街から下町に至るまで雑踏の雰囲気が良く出ており、当時の社会や世相・風俗を一目見て理解できるようによく作りこまれている。この辺は時代背景について特に勉強しなくても分かる作りとなっているので親切だ。
さて肝心のオリバー少年、オーディションで選び抜かれただけあって可愛いし演技もうまい。特にセリフなしで目で語る場面などにおいては、泣いたり笑ったりするだけで褒められる日本人の子役じゃぁ、まだまだかなわんなという印象をうけた。さすが歴史の違いと言うところだろうか。主役があまりしゃべる内容ではないだけに、ここは重要なファクターだったが、この問題に関しては難なく解決してくれている。周りの子供を含めてた出演者に関しても同様のことが言え、圧倒的な演技力を下地に個性的なキャラクターが何人も登場していて面白い。ただ、この作品の問題点は実は原作そのもにあるかもしれない。原作が古いせいもあって、どこか「小公子」や「小公女セーラ」、「アルプスの少女ハイジ」など童話の匂いを強く感じさせるのだが、とにかく主人公のキャラクター自体が弱い。主役のオリバー君、とにかくしゃべらないし、無口である。そして何だか訳の分からないうちに、大人の理不尽なしごきやいじめを受ける。そして中には助けてくれる人間も当然出てくるわけであるが、実はこれが良い人だから助けてくれる、悪い人だからいじめるというのではなく、当時の童話にありがちな社会や貧困・格差そのものを悪として描いたような描写をしているため、一般の作品に比べてどうも、主人公そのものに感情移入しにくい。またオリバー少年は賢そうだとか、大物になりそうだとか評価を受けるのだが、それが彼の行動や信条からでてきた言葉ではなく、何となく話し方や顔立ちで語られるだけにもう少し彼に関するエピソードがほしかったところである。物語に多少の強引さはあるものの、それを除けばほとんどあとは完璧。ただしこれが30年前なら大絶賛なだろうものの、主題がどうしても古く人間や社会の汚い部分が出てくるだけに、子供にも分かりにくいし、ちょっと進める人間に悩む作品だ。まぁとにかく出てくる人はみんな演技力があるのでその辺を楽しむといいのではないのだろうか。個人的にはドジャー役のハリー・イーデン君(当時14歳)の存在感ある演技に今後も注目。悪役の大人3人はさすがの一言!主役の影が薄いのはやっぱり原作のせいだろう。欧米では受けそうなものの、ちょっとアジア人には合わないタイプの作品かもしれない。(2007年9月4日)
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